水害の記録~倉敷市真備町の西日本豪雨災害~

平成30年7月豪雨(通称西日本豪雨)で大きな被害を受けた岡山県倉敷市真備町の住人による災害備忘録

気が遠くなる作業

実家は敷地が広く、家も無駄に大きく建屋も多い。
田舎の農家にありがちなタイプ。


自宅の敷地は母屋、離れ、庭、納屋、倉庫、塀もあり門もある。
少し離れて車庫、農業用倉庫2つ、作業倉庫1つ。
かなり離れて賃貸していた不動産。建物2棟、倉庫1つ。


田んぼや畑にも漂流物がたくさん入っていたのでこれも片付けないといけない。
田んぼにはどこかのスーパーから流れてきたんだろうか、運搬用のカートが横たわっているのが見えた。
業務用のでっかいやつだ。

 

農機具類も全て被災した。
ラクター、田植え機、パワーショベル、運搬機、草刈り機など他多数・・・。

これを全部片付けて掃除する・・・。
一体どれくらいかかるのか見当もつかない。

とりあえず母屋を優先して片付けることにした。
庭や玄関先に片っ端から捨てるものを置いていく。
家具や電化製品だけではない。
建具(戸やドア)も全部外して、今後使うのであれば取っておき、使わない(使えない)ものは廃棄しないといけない。
とにかく浸かった物は捨てる捨てないは別にして、全部移動させる。

気が遠くなる・・・。

使えるもの

ほとんどの物を捨てることになるが、洗えば使えるようなものもある。

 

花瓶などの陶器は使える。
食器は菌などの問題もあって使う気にはなれないが・・・。

 

表面を加工して防水された合板製品もかろうじてなんとかなるかな。
プラスチックはOKだと思うけど、薄くてペラい素材のものは劣化してすぐボロボロになる。

 

金属は使えるのだけど錆びる。とにかく錆びる。
鉄もステンレスもアルミも錆びるか腐食する。
あの水の中には一体何が入ってるんだろう・・・。

置物とかなら使えると思う。

 

自転車などは根気よく洗えば泥は落ちるのだけど、ステンレス部分錆びる、チェーン部錆びる、ブレーキもワイヤーが錆びるので利かなくなる。
結果、使い物にならなくなった。


アルミサッシとかもボロボロになった。


その時は「もう無理だ」と思って捨ててしまったが、今思えば、CD,DVDは捨てなくてもよかったかも・・・。
枚数は相当あったので、これを全部洗うという労力を考えたら、その時は残す気になれず、断捨離の気分が勝っていた。

使用できないもの

1回浸水したものは、ほとんど使い物にならない。
特に、木、紙、布類はダメ。
頑張って残してはみたけど、ほとんどが結局捨てるしかなかった。



合板は細かい木屑を接着剤で圧縮して固めたものなので、水に浸かると接着剤が溶け、ただのおがくずになる。
粉々になるので使えるもなにもない。
僕が使っていた机は天板以外消えて無くなっていたくらいだ。
合板ではなく無垢の木は、種類にもよるが、だいたい一度水を吸うと膨張し、乾くと変形しながら収縮するので元の状態にはなかなか戻らない。
樫や松の木のような硬い材質のものはあまり水を吸わないので再利用できるのだが、激しくカビが発生する。
杉のような柔らかい材質は割れたり縮んだり変形したりでなかなか利用は難しいと思う。
また、どれも何度拭いたり洗ったりしても、乾いたら白い粉のような細かい泥が浮き出てくる。
その繰り返しに心身ともに疲弊してしまう。
そして、油のようなものが染み込んだ染みが出来、これはなかなか取れない。


目の細かい泥が繊維の奥まで入り込むので、乾くと泥が固まって柔らかい布でも板のようにカチカチになる。
何度洗っても泥が滲み出てくるが、それでも何度も洗濯を繰り返したら最終的には使えるようになると思うので、労力に見合うならやればいいと思う。
僕は布製のベルトを意地になって洗ったが、10回以上洗濯してやっと柔らかくなった。
ベルト1本でこれなのであれば、服などはもっと回数がかかるのではないかと思う。
金属がついているとあっという間に錆びが出るし、思い入れがないのであれば捨てた方がいいと思う。


書類や写真など丁寧に洗い流せば残せる。
水性のインクで書かれたものは消えたりにじんだりして厳しい。
写真も少し残したが、泥でくっついてパリパリ。
でもこれは気持ちのものだからなかなか捨てられないだろうな・・・。


電化製品
使わない方がいい。
町内では被災後、何件も火事が発生した。
コンセント側から出火することもあるのだけど、製品が発火することも多かったようだ。
テレビ、冷蔵庫など家電はほぼ捨てたが、扇風機は分解して全部洗浄し再利用した。
作りが簡素なのでなんとか出来たがそれでも使わないほうが良いらしい。
洗浄してとりあえず再利用したのは扇風機と水洗トイレ。
しかしどちらも時間が立つにつれ不具合が出て、トイレは間欠的に水漏れ、扇風機はモーターが次第に回らなくなった。

片付け開始

話がそれたが、警察の聴取が終わったので片付けを始めた。

しかしもう何をどうしていいやら・・・。
家の中も外も、土砂でドロドロ。
雨が降ってぬかるんだような状態になっている中、とりあえず使えないものを捨てていくしかない。

まずは家の中のものを外に出すところから始めようと思い、1人で運べるものを1つずつ庭先へ運び出していった。

この時点ではまだ電気、水道などライフラインは全て止まっていたので、水で洗うということも出来ない。
古い家なので井戸があるのだけど、水は泥で濁って使える状態ではなかった。

ドロドロになった品物を見て、「これからまだ使おう」という気にはなれない。
川の泥なので粘りが強く細かい砂に水を混ぜたようなもの。
それがこびりついたようになり、水で洗ってもなかなか洗い落とせない。

残そうと努力したけど、結局捨てるしかなかったものもたくさんある。
うちは古い農家なのでとにかく物が多い。
昔からモノを捨てるのが苦手な家系だったらしく、一般の家庭の2倍3倍のモノがあるので、捨てるのも2倍3倍の時間が掛かる。
とにかく黙々と粛々と捨てて行くしかない。

おかしなやつ

警察や自治体が夜警に回っていたがそれも限界があるものだ。


僕も何度もおかしなやつを見かけた。

被災直後に自衛隊の格好、というより迷彩服を着た男が1人でウロウロ。
自衛隊員は確かに地域に入って作業してくれていたが、単独行動をするとは思えず、なにか不自然。

誰も住んで(帰って)いない地域を夜の10時頃、自転車でライトも点けずフラフラしている。
よく見たらあちらこちらに数人。
車で通り過ぎずに停まって様子をうかがってみたがどこかに行ってしまった。

また、11月の寒い夜に軽トラの荷台に数人の若者が乗って通りかかった。
隣家が解体中だったのだがその前で一旦停止。
バックして解体現場を見ている。
そこに僕が通りかかって車のライトで照らしたら逃げていった。


町に人が戻っていないので夜などやりたい放題。
本当に許せないクズどもだ。

窃盗続々

とにかくこの窃盗、詐欺の被害は結構長いこと真備で続くことになる。

被災直後は各家々で金品を盗まれる。
解体をしていると金物類が盗まれる。
リフォームや建て替えをしていると業者の道具が盗まれる。
復旧が進んでくると買い替えた家電などが盗まれる。
農機具を買い換えるとそれが盗まれる。

 

アルミサッシ、エアコンの室外機など何件盗まれたのだろう・・・。
友人の家には数人の男がやってきて、
倉敷市の方から来た。浸水したエアコンを無償で回収する指示を受けたので外して処分する」
 といい、エアコンと室外機を全部外して持って帰ったらしい。
白昼堂々だ。

 

しかしもちろんこれは窃盗。
倉敷市がそんなことしない。
おばちゃんが騙されてエアコン5セット盗まれた。
しかも僕と話をするまで、倉敷市が持って帰ったと信じていたそうだ。
被災して3日後くらいに来たらしい。
気付かないものか・・・。
あの状況では仕方ないな・・・。

盗難や詐欺

噂や報道で聞いてはいたが、実際経験してよくわかった。
とにかく被災地には悪いやつが大量に集まってくる。
本当に次から次へと、あっちこっちで盗難や詐欺があふれかえり辟易した。
立件されないことがほとんどだから、被災地での泥棒はおいしいのだ。

ジープで数人で来るなど被災地専門の窃盗団がいるそうだし、被災直後に近所を車でウロウロしている外国人や入れ墨をした日本人(らしき連中)が多数目撃されている。


この近所に外国人は住んでいないので、いるだけで目を引く。
洪水被害の翌日に住人でない者が数人で車でという不自然さ。
メディアでは「ネットでデマが拡散されているので惑わされるな」
とか報道されていたがデマではない。
事実だ。

このあたりのことは報道されなかったが、これは、報道すると他の泥棒も集まってくるかららしい。
「あそこに行けば盗み放題だ」
ということを知らしめるようなもので、真備町は被害が大きかったので全国で大々的に報道されたが、隣の総社市は泥棒が集まってくるのを防ぐため、情報を控えたという話も聞いた。

 

本当に被害者は無抵抗の状況で対策も何も打てない。

そこを狙って笑いながら物を盗んでいく神経・・・。

全く理解できない。